野尻泰煌の出展作

第二十三回の泰永書展が開催となります。
今回の代表のメインは、
今年スペインで出展し話題を読んだ自詠の隷書作です。
参考出品として中国に出展された同じく自詠の隷書作も展示。
さて、
先程代表より連絡がありました。
「もう2作ぐらい出せる余裕あったよね?」
そうです。
もしも蔵出しされれば20年ぶり。
実物を見るのは私も初めてになりそうです。
1つは29歳の時に漢字Ⅰ類で毎日書を受賞した隷書作品。
そしてもう1つは、日本書学院出品作になるかもしれません。
いずれも発表されてからの初蔵出し・・・。
といいながら出てない可能性もあります。
師の行動は本人すら予測不能ですので、
その際は悪しからずご了承願います。

道具の誤解

書道あるあるに該当する内容です。
長いこと気にも止めていませんでした。
よくあると聞きます。

例えば、ある先生が「あ」という筆をもっていた。
「欲しいなぁ」
と馴染みのお店に行き、

「”あ”という筆ありませんか?」
と尋ねます。すると店員は
「は?」
といった、困った顔をしてます。
これは買う側が前提条件を知らないことでしばしば発生することです。

書道用具は実は卸先店舗で名前が変わります。中身は同じです。
”A”という店舗では”あ”という筆が、”B”という店舗では”い”に変わっています。
なので当然お店のスタッフは「ありません」となります。
筆にかぎらず、紙等も卸先によって名前が変わります。

なので、

・どの店で、
・なんという商品名の
・なんなのか

この3点は最低限おさえる必要があるでしょう。
間違わない為に、価格も知っておいたらベストですね。
尚、その情報をもって馴染みの店に行っても無駄です。
該当するお店に行きましょう。
何故なら、どの店の何が自分の商品に該当するかお店の方はご存じないからです。

ちなみに私は、
上野駅にある劫榮麓(こうえいろく)を馴染みにしております。
送料はかかりますが発送にも対応してくれ、
紙は重いので発送で、筆類は直接買いに伺います。
大至急の際は、新宿の某店で買いますが・・社長すんませんw

書道展の表具もここにお願いしております。
毎回、書道展のチラシやポストカード、ポスター等を置かせてもらっております。
だいたい開催一ヶ月前にお伺いし、置いていきます。
今まさに置いてあると思いますよ。
このお店には可愛い店員さんもいます。いや、ほんと。

筆をおろす2

「筆をおろす」という記事のアクセスが非常に多いので、
私のやり方を書いておきます。

筆は購入時、糊で固められております。
それを溶かすのが「筆おろし」ということです。
糊で固めるのは、保存、毛を痛めない、筆をまとめる等、実用的な意味があります。
当然使う際には必要がないので溶かす必要が出てきます。

1.500ccのペットボトルを用意する。

2.毛先がうまる程度の水を入れる。

 
今回使う筆は
上野駅にある劫榮麓製
10,500円のミンク筆
私が普段使っている筆です。
3.筆のキャップをとります。
 筆のキャップを大事にとっておく方もおりますが。以後使いません。
 水に溶かした筆をキャップを入れるのは百害あって一利なし。
 捨ててしまって構いません。
 持ち歩きたい方は、「筆巻き」を買いましょう。
4.ペットボトルの口にセロテープで筆を仮固定します。
  入念にやる必要はありません。
5.24時間つけおき、ペットボトルを数回振ってから水を捨てます。
6.また水を入れ、同じように固定します。
7.ペットボトルを数回振り、また24時間放置します。
8.ペットボトルを数回振り、水を捨てます。
これで毛先や筆を痛めず、
横着も出来て、
綺麗に糊をとることが出来るでしょう。

 2度やるのは糊を完全にとるためですが、
面倒な方は1度目の水を捨てた後、新しい水の中で筆を泳がせて使っても構わないでしょう。

固まった筆の再生

筆は横着するといとも簡単に根本から固まっていきます。
夏場などは3日、p書かないと根本からカビます。

筆はある程度の期間ごとに洗っていないと根本から徐々に固まっていきます。
さりとてマメに洗うと毛が痛みます。
毎日書いている場合は3日に1度ほど筆の根本に水をかけ、筆たてに置いておくだけで平気です。

怠ってしまい鍾乳石のごとき根本から固まっていき、
気づけば半分も固まっていた。なんてことはありませんか?
一度固まってしまうと、水やお湯でも溶けない。それが墨です。
ガシガシやると毛が駄目になるだけです。

恥ずかしながら、私も過去によくそうしたことがありました。

「筆をダメにした」と捨てるのはまだ早い。


筆は1週間から10日ほど水につけることで再生させます。

単純に1週間も容器に入れっぱなしにすると、筆先が変形し癖がついててしまうので一工夫をします。
(方法)

・500ccのペットボトルを用意します。
・筆先が完全につかる程度の水を入れます。入れすぎはいけません。
・筆をペットボトルの口にセロテープで仮固定します。入念にやる必要はありません。
・1日に1から3回程度ペットボトルを横に数回振ります。
・水は毎日入れ替えます。
・1週間から10日待ちます。

これだけです。
カチカチに固まっていた墨が徐々にはげおち、水にも溶けていきます。
根本まで綺麗に復活。

こんな感じにつります。
(写真の筆は新品です)

ほぼ根本まで墨が溶けました。
この筆は5割ほど完全に固まっておりました。

(ご注意)

指でもむのは止めましょう。
毛が痛みますし、
毛のまとまりが崩れてしまいます。

書は人間業の結果である

書で何が表出されるのか。
野尻は、「書は魂の象徴藝術である」と言います。
氏との問答を重ねた最中で異なる言い方もしました。
「判りやすく言えば”人間業の結果”と言い換えられる」

私の書仲間には
「書は字であり字以外の何ものも表現していない。思い過ごしだ」
と述べた人もおります。色々な考え方があると思います。

私は野尻の考え方にいたく共鳴する体験が何度もあります。

年賀状の季節ですが、私は子供の頃から年賀状の手書きの字を見ます。
「今年もよろしく」の一言でもいいので手書きを好みます。
その理由は燃焼を観賞するからです。
全て印刷されたものには何ら燃焼がありません。当然のことですが。

語るよりも手書きの文字から語りかけられます。
「元気です」とか
「体調が悪いです」とか
「困難に当たってます」ということが、
「絶好調」など。
色々な今が伝わって来ます。

その中で、時折全く心当たりのない感覚を受けることがあります。
「誰だこの字の感じは?こんな字の人に年賀状出してないはずだけど?」
と表を見て、ギョっとしたことが何度もありました。
「この人はこのような字の感じじゃない」そう思ったからです。
いつから変わったのか過去の年賀状を引っ張り出すこともあります。
去年のと比較してみて、まるで別人のようであることを感じます。

「何かとんでもないことが起きている」

連絡しようと思いながら、根っからの横着からしばらく経過します。
しばらくして、忘れたぐらいに話せる機会を得て「倒れていた」ということを知ります。
「いつ?」と聞き家に帰り年賀状を確認すると、まさにその年でした。
そうした経験が幾度もあります。書はそうしたものが尚更感じられます。

腕が未熟であるほど直接的に表出されますが、
どんなに書技を磨いてもその人の歩んできた人生を覆い尽くすことは出来ないそうです。
むしろ磨きに磨き個の存在感を徹底的に排除した後に、それでも残る個の存在感。
これが本当の意味で個性であると師は語ります。

書は、それまで生きてた人間業の結果を表している。

既に告知させていただきましたが、
2012/12/21から23まで、
私が事務局をさせていただいている泰永書展が
文京シビックセンター・ギャラリーシビック展示室1Bで開催されます。
お時間が許すようでしたら我々の人間業の結果を観賞しにきて下さい。