筆をおろす

道具が揃ったらまず初めにすること、
「筆をおろす」ことです。

方法:ためた水につけて、筆が完全にひらくまでしばらく放置して下さい。

これを行う意味は、
買ったばかりの筆をつかえる状態にするためです。

筆は購入時にカッチカチだと思います。
それは毛が傷まないよう糊で固められているためです。
鮮度の高い状態で保存しておく意図もあると思います。
糊で固められたままの筆は単なる置物のようなものですので、糊をとりましょう。

キャップをとります。
水につけます。

書道をはじめられた方によくある質問として、
「どの程度とかせばいいのですか?」というのがよくあります。
私も小2の時、最初に疑問に思ったことです。

全てとかしましょう。
(小学生以下は半分程度で構いませんが、中学生以上は全部がおすすめです)

先に書いたように、糊は筆を固定しておくためのものです。
書く際には不要なばかりか、半分だけとかして、半分は糊のままにしておくと、
毛がいたむばかりか、筆がいかされません。
また、しばらく使った後で溶かすことはできないでしょう。
糊に含んだ墨が完全に筆を固めてしまい糊がとけなくなるためです。
仮にとけたとしても、筆が痛んでしまい柔軟性を失っています。

半分とかすならいっそ短鋒という穂先(毛先)の短い筆を買ったほうがいいかもしれません。
穂先の短い筆を短鋒(たんぽう)といいます。
ただし、短鋒の筆になれると中鋒の筆を使うのが困難に感じるでしょう。
腕がたつほどに穂先が長いものが扱えるようになります。LvUPといったところでしょうか。
短鋒の逆は長峰(ちょうほう)といい、穂先(毛の部分)が長くなります。
ただ、書道はあくまで作品が全てなので必ずしも長いのが扱えるから凄いとは限らないともいえます。

先を見据えれば、「全てとかす」というのが最も無難に思います。
(小学生以下以外)

「水にどれくらいつけるの?」

「何分ぐらい水につけておけばいいのですか?」と聞く方もおります。
「筆が開いて、触った感じ柔らかくなるまで」です。
「それは何分ですか?」と食い下がったりします。
自分の「こんなもんかなー」でいいでしょう。
「水につけすぎて失敗した!!」なんてことは聞いたことがありません。
(ま、実際はつけすぎはいけませんが、それは余程です)
素で1週間とか稀にいるようですが、やめて下さい。
いい時期は筆がおしえてくれます。

穂先が開いています。

ちなみに、

筆は水につけたままおくのがベストです。
途中でユラユラ揺すったり、指で揉まないほうがいいです。
ただし、それはあくまで数万円以上する筆の話と考えて構わないでしょう。
数千円やましてや1000円の筆の場合は構わないと思います。
私だったら、ガシガシやってしまうでしょう。

ほとんど糊がとけると完全に開きます。
手で触ってみましょう。

ちっちゃいことは気にしないってところでしょうか。

(筆おろしにまつわる思い出)

ちなみに私は学校で「半分だけとかしなさい」と言われました。
半分だけとかすと書くのは確かに楽になります。
特に小学生以下は体の制御が充分に行えないため半分が無難かもしれません。

しかし、いずれは全部とかす時期が来ます。
すると「げ!全然違う!」とギョっとした記憶があります。
しばらくの間なれることがなく、また半分とかした筆を買おうかと思ったほどです。
中学生以上から初めるのであれば
全部とかしていればそれが当たり前になるので慣れるのもはやいです。

うまく書けないから嫌だと思うかもしれません。
安心して下さい。
半分しかとかさなくても、上手くはかけてませんから。
誰だってそんなものです。

水さし(mizu-sasi)

これは書道(syo-do)に特に必要じゃない道具に分類されると思う。
必ずしも必須ではない道具という意味です。
代用がきくものは一杯ありそうです。
-----------------
・水さし
水差/水指
(みずさし)
(mizu-sasi)
(米:pitcher/英:jug)
用途:水を入れておく器。
-----------------

アメリカ英語でピッチャー言われると、
野球かビアガーデンしか思い当たりません。
その辺はなんとな~く斟酌をもって受け止めてください。

そのままの意味で水をいれておく器です。
専用のものもありますが、
茶道と異なり、書道は結果(作品)がものをいう世界なので
気にならなければなんでも構いません。
私は、格下げになった急須や、
甥子が旅行へいった際に作った陶磁器のお椀に入れています。

-----------------
水を入れる理由
1.墨色(boku-syoku)
2.滲み(nizimi)
3.掠れ(kasure)
4.粘度(nen-do)
これらを調整するため。
墨をすりたい場合は必ず必要です。
-----------------

1.墨色は基本的に黒ければいいのですが、
行書や草書は濃淡が鑑賞の大きな要素になってきます。
当分の間はあまり気にしない方がよいでしょう。
他に気にしなければいけないことが山積みだからです。

日本人は薄いのが好きな方は多いようですが、
薄すぎる作品もよく見かけます。
場合によっては読めません。
薄い作品は筆路不明瞭になるので減点の対象となります。
薄さにかまけて誤魔化していることも少なくないかと思います。
薄さに酔いしれた草書は危険です。
その甘美さに技術が蔑ろにされてしまうでしょう。
いずれ書道から徐々に遠ざかった世界に入ってしまうと思います。

2.「滲み(にじみ/nizimi)」は鑑賞の重要な要因となります。
滲み調整で水を入れることことも少なくないでしょう。
しかし、あまり意図しない方がよいでしょう。
滲みは結果的に出るものです。水分を含みますから。

滲みを過度に気にすると、書の道から外れて迷子になってしまうかもしれません。
作為的になってしまいます。
それは「わざとらしさ」につながる為です。
師はよく、「鼻につく」といいます。

ドヤ顔のようなものです。
うっかり出てしまったドヤ顔は表現ですが、
意図して用意していたドヤ顔は感じ悪いだけなのと同じことのように思います。

3.掠れ(かすれ/kasure)」は行書や草書にとって重要な鑑賞要素となります。
2に同じで結果的にでるものです。
水分が足りなくなれば、結果的に筆は掠れます。
よって再び筆を墨につけます。

最初のうちは誰しも掠れを嫌う傾向になります。
掠れないように墨をやたらつけるでしょう。
それで構わないと思います。
掠れを気にする以前の問題だからです。

掠れは難しいです。
わざと掠れれば、滲みと同じで鑑賞を阻害させます。
しかし、1行目と2行目が同じ位置で同じように掠れていると、
仮に書いた本人は意図していなかったとしても、作為的に感じてしまいます。
自然観が損なわれてしまうのです。
そこは意図的に位置を外します。
その意図が見透かされると鼻につくでしょう。
なので気にしないで意図する必要が出てきます。
いずれにせよ先の話です。

4.粘度、粘土ではありません。
ネットリ感ですね。
血液と同じで、サラサラしていると筆がはしります。
はしるとは、スムースに筆が動くということです。
粘度が上がると筆に抵抗を感じます。
草書の際は抵抗感は特に気になります。
主にサボったリングが出た時に気になります。
最初はそれどころではないので気にする必要はないでしょう。

(私にしか適用されない用語)

※格下げになった急須
夏場にお茶をいれたまま放置してしまいカビが盛大に繁殖。
洗った後もお茶を飲むには躊躇われた急須。680円で購入。

※サボったリング:
硯に墨をいれたまましばく放置していたため、
水分が蒸発し水位が下がった際にできる。
毎日、もしくは定期的に書いていればこんなことは起きない。
怠け者の証。(笑)